顎関節症になると全身に様々な副症状が出ることがあります。
患者さんの中には、頭痛や耳鳴りが顎関節症からきていると気づかずお悩みの方もおられます。また、顎関節症の自覚がなくても“顎(顎関節)のずれ”のある方は予備軍、または罹患者と考えられ、副症状が出ているかもしれません。
ここでは顎関節症でよくある副症状を簡単に案内しますので、参考になさってください。
■ 歯ぎしり・かみ締め癖
顎(顎関節)の位置がずれると顎の筋肉にストレスがかかり緊張が起ります。
緊張した顎の筋肉はさらに噛み締め癖を引き起こし、寝ている時の過度な歯ぎしりに繋がります。
このような過度な噛み締めは、とても大きな咬合力となり歯並びへの負担となります。
そのため、歯が扇状に開いてきたり、奥歯が倒れてきたりします。
歯周病にもなりやすくなるので注意が必要です。
■ のどの異物感(嚥下困難)
顎の位置の後方へのずれは“のどに異物感”を起こします。この異物感は食事を阻害する“嚥下困難”に繋がることがあります。
また、重症化すると嚥下困難、咽頭痙攣(喉頭痙攣)などの呼吸困難、四肢のしびれなども現れることがあります。
“のどの異物感”は多くの場合、顎の位置および咬み合わせの矯正で改善することができます。
■ 頭痛(筋緊張性頭痛)
顎の位置のずれは顎の筋肉や周囲の筋肉への負担になります。
顎関節症では側頭筋(顎を後方に引っ張る筋肉)が緊張して起こる筋緊張性頭痛が副症状のひとつとして考えられています。
筋緊張性頭痛は良性頭痛に分類され慢性的に起こりやすいことが特徴です。
命に係わる急性くも膜下出血や脳腫瘍などの悪性頭痛ではありませんが、原因がわからない場合はまずは精密検査を受けましょう。
顎関節症による筋緊張性頭痛の仕組み
人間の動作は筋肉の収縮(縮む)と弛緩(伸びる)、そして同調によって成り立っています。顎の動きも同様ですが、顎関節に異常が起こると特定の筋肉が収縮ばかり起こすようになります。いわゆるコリと呼ばれるものです。
顎関節症の筋緊張性頭痛は顎の周囲、頭や首の筋肉が緊張して強いコリを伴った痛みを生じさせると考えられています。
筋緊張性頭痛の特徴・症状
・ 後頭部から頭部全体にわたる筋肉のつっぱり感、締めつけられるような痛み
・ 精神的、肉体的、社会的ストレスなどを機に発症したり増強する
・ お風呂に入ったり、お酒を飲んだりすると痛みが和らぐ(感覚トリック)
・ 頬杖など、顔に手をあてがっていると痛みが和らぐ(感覚トリック)
・ 首の痛みやつっぱり、肩こりがいつもあるように感じる
・ 歯ぎしりや食いしばりを伴うことがある(就寝中のみの場合あり)
顎関節症を発端に頭痛持ちへ・・・
顎関節症で下顎の位置がずれると首から上の重心もずれます。
すると重心のずれを補うかのように頭の傾きや頸椎の並びに変化が起こります。
その結果、頭や首の筋肉が常時緊張することになり、神経や血管が圧迫されてコリとなり筋緊張性頭痛が引き起こされます。
顎関節に直接繋がっている側頭筋や翼突筋に影響がおよぶと“こめかみに起こる頭痛”となりますが、これは無意識の咬み締め癖を持っている方のよくある症状です。
■ めまい
めまいのタイプは様々で、診断も難しく、咬み合わせが原因とは言い切れません。
しかし、顎関節のゆがみが頸椎や脊椎のバランスを崩し、自律神経がその影響を受けると、立ちくらみや立位の不安定感に繋がることがあります。
めまいでお悩みの方は診察を受けてみましょう。
■ 耳のつまり
耳のつまりは、エレベーターや飛行機に乗っている時、トンネルに入った時などに起こりますが、これは一過性のもので病気ではありません。しかし、顎関節症になると耳のつまりが慢性化することがあります。
鼓膜と喉を繋ぐ耳管には外部の気圧と鼓膜の内側の気圧を一定に保つ役割があります。
顎の位置がずれると三叉神経の働きが低下し、耳管の開閉をコントロールしている筋肉に緊張が起こります。耳管を閉じた状態のままだと鼓膜内外の気圧を一定に保てず“耳のつまり”を感じるようになります。
■ 三叉神経痛
三叉神経は12対の脳神経のひとつ(第Ⅴ脳神経)で眼神経・上顎神経・下顎神経に分岐し、顔面の表情(運動神経)や感覚(感覚神経)を司る脳神経では最大の神経です。
顎関節症によって三叉神経周囲の筋肉が緊張すると神経が圧迫され痛み(三叉神経痛)を起こすことがあります。女性に多く、突然顔面に鋭い痛みが走るのが特徴で、通常は顔面の片側どちらか、痛みも比較的短時間(数秒~数分)です。
顎関節症が原因の場合は顎関節や顎の位置、咬み合わせ治療で改善できます。
■ 顔面神経麻痺(ベル麻痺)
顔面神経が支配する顔面筋の運動麻痺が顔面神経麻痺です。
主に神経へのウイルス感染で起こりますが、中には明らかな原因が不明な特発性顔面神経麻痺もあります。
顎関節症によって顔面の筋肉や組織が緊張し、顔面神経が圧迫されて麻痺にいたることもあります。
■ その他の顔の痛み(顔面痛)
顎関節症による顎のズレは顎の周囲の筋肉への大きな負担となります。
この負担が筋肉への乳酸の蓄積や痛みのもととなる“発痛物質”を蓄積させ、慢性的な顔面痛(非定型顔面痛)を起こすことがあります。
■ 肩こり・くびの痛み
顎関節症による顎のズレは頭の位置を微妙に変化させるので体全体の重心に狂いが生じます。重心が変化すると自然にバランスをとろうとするので、頭の傾きや頸椎の並びも変わってきます。
よくあるのは顎が前方へ突き出た姿勢で、人によっては猫背で背中が丸まって見えたりします。
この姿勢は体への負荷が大きく、首や肩の筋肉を緊張させ肩こりや首の痛みの要因になることがあります。症状が進行すると、腕や背中に痛みを起こす頸椎症や線維筋痛症に繋がることがあるので注意が必要です。
顎関節症と肩こり・首痛の関係
人間の身体は骨と骨が筋肉で繋がっています。
頭から肩にかけては、頭骨・下顎骨・頸椎・舌骨・肩の骨(肩帯)があり、筋肉によって機能(動作)しています。
下顎の位置が少し変わるだけでも、頭や頸椎、肩の位置が変化し、その動きに無理が生じて肩こりやくびの痛みが発現するのは理解できるところです。
慢性的なうつむき姿勢は首(頸椎)の自然な湾曲が失われた状態でストレートネックと言います。
顎関節症の方によく見られる姿勢ですが、頭痛・肩こり・首痛・めまい・手のしびれ・頚椎症など様々な症状の引き金になるので、心当たりのある方は診察を受けるようにしましょう。
姿勢の問題
先に顎関節の位置のズレが全身のバランスに影響することをお話ししましたが、原因不明の腰痛や膝の痛みを抱えている方も顎関節症が原因であることもあるので心に留めておいてください。